五條悟と時渡るJK〜過去いま運命論〜(dream)

□20-トラブルとJK
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 超大型のバケモノを倒したアミは、ビルの屋上からしばらく様子をみてた。

 渋谷にかかってた霧や雲がどんどん晴れて行く。
 そして、空には渋谷のにぎやかさと正反対の静かな暗闇が戻って、月が明るすぎる渋谷を優しく照らしてた。



「疲れたぁ…」

 戦闘終了後、一段落したアミは壁を背もたれに座り込んだ。
 渋谷のピカピカした街を見下ろして、サイダー味のチュッパチャップスを口に入れる。
 甘くて、美味しくて、サイコーだった。

 バケモノ退治が出来て安心したら、今日一日の疲れが出てきちゃった。
 取り敢えず休憩しようとアミは、まったりアメを味わう事に集中してみる。

 1時間か2時間くらい休めば、工事現場から脱出する体力は戻ると思うんだよね。

――夜の繁華街で遊ぶにしても、休憩は必要だよね、うん! 新宿へは終電に間に合えば良いだけだし!

 アミはガラケーを取り出して、ネットで時刻表をしらべようとしたら「圏外」だった。
 え、マジで? と思って色々屋上を移動してみたけど、「圏外」は変わらなかった。

 時計は内臓されてるのがあるみたいで、今の時間は夜の20時前を指してた。

――んー、アミもクタクタだし、ちょっと休憩してから降りればいっか

 携帯にはミニゲームが入ってて、休憩しながら暇つぶしに遊んでた。
 そんな風に1時間くらいのんびりしてたアミ。

「あん? 開いてんじゃねーか……」

 扉の開け閉めの音の後、若い男の人の声が届いた。

「えー、コワッ! 誰かいるのー?」

 女の人の声も響いて、アミは屋上扉の方にこっそり視線を送る。
 そこには、ヤンキーみたいな不良と、ガングロ女子がいた。

 アミがいるのは扉からは死角になってる位置だから、向こうにはバレてない。

「おい、誰かいんだったら出てこいや!! ああん!?」

 不良の男の子の怒鳴り声が屋上に響いた。
 出て来いって言われて、出て行く必要もないからアミは無視して隠れたままにする。

「ここ、アンタだけが知ってる場所って訳じゃないんでしょ?」
「そうだな、他にも使ってるヤツはいる。…アイツら、鍵の閉め忘れたのか?」

 男の子が屋上を歩き回り始めたので、アミは見つからないように物陰に隠れて小さくなった。

「元は俺だけの場所だったのによ。チッ、自慢しすぎちまったな…」
「ねぇ、それより……、もう、我慢できないんだけど」

 女の子の熱っぽい声が聞こえて、アミは口元が引きつった。

「いや、俺もだけどよ。ここに他の奴がいるかもしれねーだろ? だから…」
「別に聞かせてやればいいじゃん。すぐに出て来れない根性なしなんでしょ?」

 そこから、粘っこーいキスの音がこっちまで聞こえてきて、ウゲェッてなる。

「それに隠れてるかもしれない人だって、物陰に隠れて私たちの声聞いて楽しんでるかもしれないし」
「ギャハハッ、お前のそういう所好きだぜ。そしたらたっぷり聞かせてやらねーとなぁ」

――いやー、もー、シンドイってばぁ……。

 女の子、大胆すぎでしょ。痴女ジャン。
 男の子、馬鹿でしょ。猿ジャン。

 アミがげんなりしている間に、なんか向こうは盛り上がってるし。

 普段のアミならこの場から出てって明るく適当にあしらえるんだけど、今は、もー、すごく疲れすぎちゃって無理だった。

 出るに出られなくなったアミは、耳を手で塞いでやり過ごそうとそうとする。 
 でもね、耳を手でふさいだって聞えちゃうものは聞えちゃうんだよねぇー。

 うわー、マジ、ストレス! もう最っ悪!――って絶望してた時だった。

「何やってんだ!! お前たち!!」

 低い声が響いて、屋上が少し明るくなった。
 どうしたんだろうって、またこっそり覗いたら4つの光が屋上を照らしてた。

「な、なんて恰好してるんだ! ここは盛り場じゃないぞ!?」
「え、きゃあ! ちょっ! やめてよ」
「最近、不法侵入してたのはお前たちか! 警察につきだしてやる!!」
「オイ! 俺の女に手、出すんじゃねーよ!!」

 明かりを持ってた人とカップルが言い合いになる。
 だけどしばらくして、痴女の子と猿の子はキャンキャン言いながら光に連行されてった。

 2つ分の明かりが無くなって、2つの明かりが残った。

「ほら、幽霊なんていなかっただろ? 君も気にし過ぎだって」
「は、はい。スミマセン…」
「だが結果的に4人で来て良かったな。私はカップルの応援にいってくる。最後に屋上の確認だけ頼むよ」
「……承知しました」
「アハハッ、大丈夫、大丈夫。幽霊なんて気のせいだ! 頼んだよ」

 片方の明かりが無くなって、残った明かり――最後の一人の警備員さんが屋上を見回り始めた。

「怖くない。怖くない。幽霊なんていないんだ」

――うーん、まずいかも…

 丁寧に物陰まで確認してるから、このままだとアミ見つかるかもしんない。

 警備員さんが後ろを向いた間に、アミは食べ終わったチュッパチャプスの棒を投げた。
 転落防止の柵に当たって、カツンッ――って音が鳴ると、警備員さんが反応した。

「誰だ!?」

 声を震わせながら警備員さんは、アミが棒を投げた方へ歩いて行く。

 後ろからの気配にはビビッて反応しなかったのに、今は反応してる。
 これは本格的にちょっとヤバいかもしれない。

 アミは今いる所から警備員さんが確認した物陰まで移動しようと――するのをやめて、ゴルフバックに手をかけた。

 警備員さんは音がした周辺に何もないのを確認すると笑った。

「ハハッ、なんだ。何もないじゃないか。気のせい、ただの気のせいだ。ハハハっ!」
「…ぃる」
「ハッ?」

 “聞えちゃった”警備員さんが振り返る。

「くぉぉくぉぉにぃぃいぃぃぃるぅうぬぉぉぉ!!!!!!」

 警備員さんの真後ろには、人間位の大きさのバケモノが立っていた。

「ぎぃゃああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 腰を抜かして動けなくなったらどうしよう、って思ったけど、警備員さんはアミの予想と反対にソッコーで逃げてった。

 バケモノはその後ろを追いかけようする。

「まぁぁぁッ、ぁッ……」

 パシュッ――とハンドガンタイプのエアガンで、バケモノを仕留める。

「ぁッ…ぁッ…」

 一発で決めきれなくて、もう五発叩き込んだ所でバケモノは消えてった。
 固かったけど、そこまで面倒なバケモノでなくてアミはホッとした。

――あの警備員さん、なんだかんだ言っても怖かったんだろーなぁ…

 アミは少しだけ同情した。バケモノは心の弱い人の傍に出ちゃう。
 
――だけど助かっちゃった。警備員さんたちが戻ってくる前に、アミもここから出よーっと...

 ゴルフバックを担いで、屋上のドアノブに手をかける。

 ガチャッ――ドアノブが途中までしか回らない。

 うん? って思って、もう一回、ドアノブを捻る。

 ガチャッ、ガチャッ――やっぱり、ドアノブは途中までしか回らなかった。

「………………えッ?」

 ガチャガチャガチャ――乱暴に何回も回してみるけど、それ以上回せなかった。

「ちょっと待って、ウソでしょ!?」

 あの警備員さん、あんだけビビッて逃げたクセにしっかり鍵かけてったんだけど! 
 怖がりのくせに最っ悪!! そんなにバケモノが怖かったの!? てか、自分の心が弱くてバケモノ呼んだんじゃん!! アミの同情返してくんない!? 

 バンッ、バンッ!って扉を叩いたり蹴ったりしたけど、びくともしなかった。
 
 この屋上、圏外だから携帯電話からじゃ助けも呼べない。――本ッ当に、最ッ悪なんだけど!! もう!!



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